【北九州記念2024】ピューロマジックが逃走V!重賞連勝で夏の主役へ

回顧録

2024年北九州記念|ピューロマジック、光と風を切って

 

スタンドの歓声が曇天を突き抜けた。小倉競馬場の芝1200メートル——風に包まれたコースを、ひときわ鋭い脚で駆け抜けたのは、3歳牝馬・ピューロマジック。2024年6月30日、第59回北九州記念(GIII)は、夏の嵐を思わせるような“波乱”と“歓喜”の一戦となった。 

ピューロマジックの重賞連勝劇

馬場状態は稍重、曇天の空がコース全体を柔らかく包む午後。

3番人気に推されたピューロマジックが、スタート直後から迷いなくハナを切った。

前半3ハロンは36.0秒。開幕週らしい高速馬場ではなかったが、それを承知で松山弘平騎手は果敢に押し切り策を選択した。

直線に入っても、そのスピードは衰えなかった。

馬体を真一文字に伸ばし、風を切るようにゴールを駆け抜けた。

時計は1分07秒9。前走の葵ステークス(GIII)に続き、見事な重賞連勝である。

 

脇を固めた二頭、伏兵の意地

2着に飛び込んだのは9番人気のヨシノイースター。

ベテランの丸山元気騎手が冷静に捌き、後方からしぶとく追い上げて1/2馬身差で食い下がった。

一方、3着には16番人気のモズメイメイが突っ込んだ。

こちらは道中ほぼ最後方から、直線一気。

鞍上の国分恭介騎手は「ようやく馬が戻ってきた」と語ったが、その末脚には観客もどよめいた。

 

馬場状態と戦術、そして松山の選択

今回の北九州記念で注目すべきは、やはり馬場の特性だろう。

開幕週とはいえ稍重。内が有利なトラックバイアスの中で、ピューロマジックは12番ゲートからハナを奪った。

枠順に惑わされることなく、自ら主導権を握る選択をした松山騎手の判断は見事だった。

ハロンラップは11.4 – 10.2 – 10.7 – 11.1 – 11.9 – 12.6。つまり、後半でやや失速しても差されなかった。

「あの馬場を味方につけて、気持ちよく行かせた」とコメントした松山の表情は、勝利を確信した者の安堵に満ちていた。

 

葵Sとの連動と血統背景

父アジアエクスプレス、母メジェルダという血統。

その名のとおり、「魔法のようなスピード」を宿した牝馬が、春の葵Sに続いて夏の小倉でも頂点に立った。

村田牧場の生産、スリーエイチレーシングの所有と、育成・管理サイドの丁寧な仕上げが、ここに結実したといっていい。

2022年北海道セレクションセールでの落札から、実に約2年半。

その投資は、今年の夏、確かな回収に至った。

 

2024年夏、日本の景色と競馬の熱

2024年という年、日本はコロナ禍からの回復期に入っていた。

観光地には活気が戻り、競馬場にも家族連れや若者の姿が戻りつつあった。

この日の北九州記念も、小倉の街にとって“夏の風物詩”。

曇り空の下、蒸し暑さが肌にまとわりつくような午後。

それでも、スタンドの熱は冷めることがなかった。

ピューロマジックがゴールに飛び込んだ瞬間、歓声がその曇天を突き破った。

 

結びに──軽さの中にある本物の強さ

ピューロマジックの走りは、一見すると軽やかで華やかだった。

だが、その裏にあるのは冷静な戦術、調教師・厩舎スタッフの献身、そして馬自身の成長である。

一頭の牝馬が、重賞連勝を果たすことは決して偶然ではない。

それは夏の空の向こうに、次のステージを映し出す序章かもしれない。

北九州の熱を追い風に、ピューロマジックの物語は、まだ始まったばかりだ。

 

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