2024年北九州記念|ピューロマジック、光と風を切って
ピューロマジックの重賞連勝劇
馬場状態は稍重、曇天の空がコース全体を柔らかく包む午後。
3番人気に推されたピューロマジックが、スタート直後から迷いなくハナを切った。
前半3ハロンは36.0秒。開幕週らしい高速馬場ではなかったが、それを承知で松山弘平騎手は果敢に押し切り策を選択した。
直線に入っても、そのスピードは衰えなかった。
馬体を真一文字に伸ばし、風を切るようにゴールを駆け抜けた。
時計は1分07秒9。前走の葵ステークス(GIII)に続き、見事な重賞連勝である。
脇を固めた二頭、伏兵の意地
2着に飛び込んだのは9番人気のヨシノイースター。
ベテランの丸山元気騎手が冷静に捌き、後方からしぶとく追い上げて1/2馬身差で食い下がった。
一方、3着には16番人気のモズメイメイが突っ込んだ。
こちらは道中ほぼ最後方から、直線一気。
鞍上の国分恭介騎手は「ようやく馬が戻ってきた」と語ったが、その末脚には観客もどよめいた。
馬場状態と戦術、そして松山の選択
今回の北九州記念で注目すべきは、やはり馬場の特性だろう。
開幕週とはいえ稍重。内が有利なトラックバイアスの中で、ピューロマジックは12番ゲートからハナを奪った。
枠順に惑わされることなく、自ら主導権を握る選択をした松山騎手の判断は見事だった。
ハロンラップは11.4 – 10.2 – 10.7 – 11.1 – 11.9 – 12.6。つまり、後半でやや失速しても差されなかった。
「あの馬場を味方につけて、気持ちよく行かせた」とコメントした松山の表情は、勝利を確信した者の安堵に満ちていた。
葵Sとの連動と血統背景
父アジアエクスプレス、母メジェルダという血統。
その名のとおり、「魔法のようなスピード」を宿した牝馬が、春の葵Sに続いて夏の小倉でも頂点に立った。
村田牧場の生産、スリーエイチレーシングの所有と、育成・管理サイドの丁寧な仕上げが、ここに結実したといっていい。
2022年北海道セレクションセールでの落札から、実に約2年半。
その投資は、今年の夏、確かな回収に至った。
2024年夏、日本の景色と競馬の熱
2024年という年、日本はコロナ禍からの回復期に入っていた。
観光地には活気が戻り、競馬場にも家族連れや若者の姿が戻りつつあった。
この日の北九州記念も、小倉の街にとって“夏の風物詩”。
曇り空の下、蒸し暑さが肌にまとわりつくような午後。
それでも、スタンドの熱は冷めることがなかった。
ピューロマジックがゴールに飛び込んだ瞬間、歓声がその曇天を突き破った。
結びに──軽さの中にある本物の強さ
ピューロマジックの走りは、一見すると軽やかで華やかだった。
だが、その裏にあるのは冷静な戦術、調教師・厩舎スタッフの献身、そして馬自身の成長である。
一頭の牝馬が、重賞連勝を果たすことは決して偶然ではない。
それは夏の空の向こうに、次のステージを映し出す序章かもしれない。
北九州の熱を追い風に、ピューロマジックの物語は、まだ始まったばかりだ。
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