しかし、その中に詰め込まれた駆け引き、
そして馬と人の絆は、ひと夏の物語として語り継がれるべきものです。
差し馬が勝つには、どんな条件が必要だったのか?
新潟の潮風が混じる空気の匂いまで思い出すように、
あなたもこのレースをもう一度追体験してください。
物価高騰が続く中で夏のボーナス消費がニュースを賑わせ、
同時にスポーツ界ではパリ五輪で日本勢が快進撃。
そんな明るい話題と裏腹に、能登半島地震の復興支援が続き、
競馬界でも地方競馬関係者の不祥事が取り沙汰されていました。
屋台からはトウモロコシの甘い香り、
焼きそばのソースが風に乗って流れ、
パドックの周りでは汗ばむ子どもたちがかき氷を頬張っていました。
観客席に座る大人たちは新聞とスマートフォンを手に、
今年の千直決戦に期待を寄せていたのです。
舞台設定:新潟芝1000m・千直の独特な空気
スタンドからまっすぐに伸びる芝が視界を貫き、
遠くのゴール板が蜃気楼のように揺らめく。
曇天でありながら湿気を帯びた風が頬を撫で、
蹄が地面を蹴り上げる乾いた音がスタート地点から響きます。
芝の生育状況が良く、内側よりも外側が走りやすい。
向かい風が微かに吹き、速すぎる先行勢には厳しい条件となっていたのです。
ファンファーレの余韻をかき消すように、
18頭が一斉に飛び出しました。
スタート直後の蹄音が低く重く響き、
芝を蹴る匂いが風に混じります。序盤200mは11秒6、次の200mは10秒2。
400m通過21秒8、前半はやや速めの流れ。
しかし後半600mは33秒5と失速気味で、
持続力と末脚勝負の様相を呈していました。
国分恭介騎手は「風を感じながらも馬がリズムを崩さなかった」と語っています。
残り400m、手綱をそっと動かすと馬体が一気に沈み、
蹄が芝を叩く音が鋭く変わりました。
ゴール前200mでは一歩ごとに観客席のどよめきが増し、
直線一気に抜け出した瞬間、
風が観客席へ流れ込むような錯覚を覚えるほどでした。
音無秀孝調教師にとっても通算重賞88勝目という節目であり、
「我慢して差す」という新しい形がモズメイメイに新たな可能性を開いた瞬間でした。
序盤から好位を確保し、重い蹄音を響かせながら粘りました。
ゴール前では筋肉が硬直するような粘りを見せ、
2着を死守した姿に観客席から拍手が起こりました。
スタートから迷いなく先行。
乾いた芝を巻き上げながら最後まで踏ん張り、
粘り腰を見せた姿が印象的でした。
鼻には芝と湿った風の匂いが届きます。
視界いっぱいに広がる緑の絨毯の上、
馬体の筋肉が蠢く様子が肉眼で追えるほど近く感じられる。
ゴール前では砂埃が靴に舞い込み、
その熱気が足元から伝わってくるほどでした。
定年前最後の夏を迎える音無調教師にとって、
この勝利は単なる1勝ではなく、
長い競馬人生の締めくくりのような意味を持っていたのです。観客席でも、多くのファンが「この勝利で夏競馬が好きになった」と語り、
子どもを連れた家族連れの笑顔が印象的でした。
- 勝ちタイム:55秒3(良・向かい風)
- 上がり3F:モズメイメイ 32秒8(最速)
- 前半通過:400m 21秒8
- 後半600m:33秒5
- 人気順:1着3人気、2着2人気、3着8人気
- 馬体重:モズメイメイ464kg(−4kg)、ウイングレイテスト504kg(±0)
それは「適性」「信頼」「脚をためる勇気」です。
モズメイメイと国分騎手、そして陣営の信頼関係が、
この夏の千直で見事に証明されました。次にあなたが新潟の直線1000mを観戦するとき、
風の匂い、芝の光、蹄の音にまで耳を澄ませてください。
そこには、まだ誰も知らない次のドラマが待っています。
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