2024年中京記念レース回顧|アルナシームが小倉で覚醒!横山典弘の神騎乗と勝因を徹底解説

回顧録

2024年中京記念|アルナシーム覚醒の夏。横山典弘との静かなる共鳴

 

「蹄音が心を揺らすのは、なぜだろう?」

真夏の陽が照りつける小倉競馬場で、その問いがふと浮かびました。
湿り気を帯びた芝の匂い、弾けるようなセミの声、観客の歓声が重なり合う中──
ひとつのレースが、時間と記憶の層を突き抜けて、静かに心を打ちました。

2024年7月21日。
この日、小倉競馬場で行われた第72回中京記念(GIII)。
5番人気アルナシームと名手・横山典弘が、完璧なタイミングで美しく弾け、真夏の記憶を塗り替えたのです。


移ろいの舞台、小倉で刻まれた「中京記念」

本来、中京芝1600mで行われるこのレース。
ですが2024年は、改修工事により再び小倉競馬場・芝1800mへと舞台を移しました。
かつての中京記念──ハンデGIIIとしてサマーマイルシリーズを構成するひとつのピース。
その流転の歴史が、今年また新たなページを刻むこととなります。

レース当日の小倉は、34度を超える酷暑。
しかし空はどこまでも青く、入道雲が立ち上る空の下、芝は朝から「良」状態を維持。
馬場には心地よい弾力が残り、スピードとパワー、そして一瞬の切れ味が問われる条件が揃っていました。


前評判を覆す、静かな“覚醒”

1番人気はエピファニー。
前走のパラダイスSを鮮やかに差し切った美しい馬体と安定した末脚に、ファンは信頼を寄せていました。
2番人気はエルトンバローズ。昨年の毎日王冠ではソールオリエンスを撃破し、秋G1路線を戦った実力馬です。

アルナシームは5番人気。
かつては「気性難の天才」と評されながらも結果が伴わず、GIIIすら手が届かない馬と見なされていました。
しかし、名手・横山典弘との出会いが、馬に変化をもたらします。

「この馬は、流れに乗れば切れる。
無理に抑えず、馬のリズムで行けば、自然とゴールは近づいてくる」──
レース後、横山騎手はそう語りました。


レース展開:風を斬るリズム、蹄の調べ

15頭がゲートに収まった午後3時35分、小倉競馬場の空気が静まりました。
スタートと同時に、ドゥラモンド、サヴォーナが好発を決め、やや縦長の隊列に。

1000m通過タイムは60秒5。
明確なハイペースではありませんが、前を行く馬たちは内ラチ沿いに密集。
アルナシームは7番手、外目をポツンと回るような位置取りでした。

3コーナーで外からじわりと進出。
「焦らず、だが待たず」。
典弘の手綱から、長年の経験が導き出す”間”が馬場に刻まれます。

直線。
内で粘るエピファニー。外から一気に追い込むエルトンバローズ。
しかし、その間をすっと縫うように、アルナシームの影が伸びてきます。

ゴール前50m。
クビ差で交わし、先頭。
気づけば、観客席から大きな拍手とどよめきが沸き起こっていました。

タイムは1:47.2。
ラスト3Fは36秒4。
完璧な差し切り勝ちでした。


「典弘芸術」と呼ばれる所以

この勝利が特別だったのは、馬の力だけではありません。
58歳のベテラン、横山典弘が成し遂げた“レース芸術”のような騎乗。

重賞120勝を超える名手ですが、1ミリ単位のズレも許さない絶妙な騎乗で
気性の難しさで知られるアルナシームを自在に操り、勝利に導いたことには、どこか静謐な詩情すら感じられました。

「競馬とは、呼吸である」
そう言わんばかりの、柔らかく、力強い“間”。
観る者の感情を動かす騎乗とは、まさにこのことだったのかもしれません。


社会と時間:2024年、日本の中の「中京記念」

この年の日本は、円相場が1ドル=161円台という37年ぶりの円安水準に突入。
エネルギー価格の上昇や、インバウンド消費の盛り上がりに市民の関心が集まっていました。

日経平均株価はバブル期以来の高値を更新。
一方で物価高、特に食品価格の上昇は、夏の家計をじわじわと締めつけていたのです。

そんな中、真夏の競馬場に集まったファンたちは、灼熱の太陽と冷えたビール、
芝に響く蹄音とともに、数分間だけ“時代”から解き放たれる幸福を味わっていたのかもしれません。


レース後の余韻:勝利の香りと、静かな余白

ゴール後、勝ち馬の額からは汗が滴り落ち、
馬装解除所では水を被る馬体が陽にきらめいていました。

観客たちはスマホを掲げて「典さん、ありがとう!」と声を上げ、
夏の空に拍手が反響するなか、アルナシームはゆっくりと引き揚げていきます。

ふと、芝の上に残された蹄跡を見ていると、
そこには確かに「記憶」と「技術」と「気持ち」が交差していたことを、感じさせる何かがありました。


終わりに:名もなき重賞に刻まれた名騎乗

「中京記念」というレースが、これほどまでに胸を打つことがあるとは──
そう思わせてくれた2024年夏の小倉開催。

GIIIという肩書では語れない、
一頭の“やんちゃ坊主”と、一人の“職人騎手”が織りなした、夏の記憶。

どうか、また来年の中京記念も、このような奇跡が起こりますように。
そして、いつかその奇跡の瞬間に、あなたが立ち会えますように。

 

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