2024クイーンステークス回顧|51キロのコガネノソラが札幌を制す!

回顧録

【2024年クイーンステークス回顧】
夏の札幌、51キロの羽が舞った日

 

なぜ、51キロの軽さが札幌の芝を切り裂けたのか?
それがレース前の誰もが抱いた問いでした。2024年7月28日。
札幌競馬場に広がる空は雲が切れ、昼過ぎには薄い青が顔を出していました。
ほんの数時間前まで降り続いた雨が芝を湿らせ、微かに土の匂いを運んでくる。
涼しい風と夏の日差しが交錯する北海道特有の空気の中、14頭の牝馬がゲートに並びました。

夏の札幌、緑の絨毯に響く蹄音

観客のざわめきは柔らかい風に溶け、パドックでは芝の香りに混じって馬体に塗られた
ゼラニウムオイルの独特な匂いが漂っていました。

「今日の札幌は馬場が掴みにくいね」
スタンド近くで話す年配の男性ファンの声が耳に届きます。
稍重発表でしたが、正午過ぎから太陽が芝を乾かし、踏みしめるとわずかに弾力を感じるほどに回復していました。

夏競馬らしい空気です。
スタンドでは地元の子どもが食べるとうもろこしの甘い匂いが風に混じり、午後のレースを楽しむ観客たちの手には冷たいビール。
湿気を帯びた芝の匂いと混ざり、北海道の夏らしい香りが会場を包んでいました。

ファンファーレとともに高鳴る鼓動

15時35分。ファンファーレが鳴り響きます。
空気が一気に張りつめ、観客の目が一斉に芝コースへ向きました。

丹内祐次が手綱を取るコガネノソラは、1枠1番から静かにゲートへ向かいます。
父ゴールドシップ譲りの気性の強さが懸念される中、今日は落ち着いた気配。
「51キロの軽さが最後にどう影響するのか…」
実況席からもそんな声が漏れます。

ゲートが開いた瞬間──前半1000mの駆け引き

スタート直後、コンクシェルが勢いよく飛び出しました。
2F目は11.2秒。例年より速い流れに、場内がどよめきます。
「このペースで行くのか!」
観客席の男が声を上げ、ビール片手に立ち上がる姿が見えました。

コガネノソラは中団7〜8番手を確保。
前半1000mは60.3秒、スロー気味ながら逃げ馬に引っ張られる微妙なペース。
丹内は内ラチ沿いを選ばず、じっと外へ持ち出す準備を整えます。
「焦るなよ…」
スタンドのファンも、丹内と同じ気持ちだったでしょう。

3コーナー、芝の湿気が蹄を重くする

3〜4コーナーの芝はまだ湿り気が残っていました。
踏み込むたびに、しっとりとした音が蹄の裏から響く。
後続馬が巻き上げる芝の匂いがむわっと風に乗り、観客席まで届きました。

コガネノソラはじわじわと外からポジションを上げます。
丹内は軽量51キロを信じ、馬場の良い外を選びました。
馬体が風を切り裂く音が一段と鋭くなり、ゴールドシップ産駒らしいパワーを感じさせます。

直線──夏風を裂く51キロの切れ味

直線に入ると、逃げ粘るコンクシェルが必死に馬場を掻き込みます。
しかし、外から一気に伸びたのはコガネノソラ。
蹄が芝を裂く乾いた音が、重馬場明けの柔らかな響きに変わります。

「差せ、差せ!」
観客席から声が飛び交い、スタンドが揺れるような歓声に包まれました。

ゴール前50メートル、コガネノソラがコンクシェルをクビ差で交わします。
ゴール板を駆け抜けた瞬間、丹内の右腕が大きく天へ突き上がりました。

勝因のすべては51キロにあり

1分47秒4、上がり3F35.3秒。
このタイムは稍重を考慮すれば、十分な好時計です。

何より勝因は、51キロの斤量を生かした持続力。
菊沢隆徳調教師の言葉を借りれば、「軽さを存分に生かしたロスのない運び」がすべてです。

丹内は道中、無理にインへ潜り込むことなく、馬場の良い外を選びました。
その結果、ラストの瞬発力を最大限に引き出せたのです。

2着ボンドガール、3着アルジーヌの奮闘

2着は後方11番手から伸びたボンドガール
上がり33秒台の脚を見せましたが、位置取りが悔やまれる内容でした。

3着はアルジーヌ。先団3番手で粘り込み、内ラチ沿いを選んだ戦略が光りました。
インを利した強気の競馬は、勝負根性を感じさせます。

敗れた人気馬の苦悩

1番人気ウンブライルは10着。
大外枠14番、道中ずっと外を回るロスに加え、57キロの斤量が響きました。

逃げたコンクシェルも4着。
前半2Fの11.2秒が致命的で、早仕掛けが最後の失速を招きました。

人物と裏舞台──丹内祐次と菊沢隆徳の夏

丹内にとって、この勝利は大きな一歩。
「51キロの馬に乗る責任を感じていた」とレース後に語りました。

管理する菊沢隆徳調教師は、牝馬育成に定評があり、ゴールドシップ産駒の扱いにも精通しています。
「北海道の涼しい気候で馬体が絞れたのが大きい」と笑顔を見せたのが印象的でした。

時代背景と夏競馬の文化

2024年の夏、日本は景気回復基調にあり、札幌競馬場周辺でも観光客が目立ちました。
地元の市場では朝採れの魚介が並び、観光客の笑い声が競馬場の熱気と混ざり合う。
札幌の夏競馬は、観光とともに地域経済を支える大きなイベントです。

この日も家族連れが多く、子どもが「コガネノソラ」のぬいぐるみを握りしめて観戦する姿がありました。
競馬場は、単なるギャンブルの場ではなく、夏の北海道の文化を象徴する空間なのです。

結び──問いかけへの答えと未来

冒頭の問い、「51キロの軽さは勝負を変えるのか?」
答えはこのレースが証明しました。

コガネノソラが刻んだ蹄跡は、夏競馬に新たな1ページを加えました。
これから秋の大舞台へ、彼女がどんな物語を紡ぐのか。
その一歩を見届けたあなた自身の胸にも、涼しい札幌の風と蹄音がまだ残っているはずです。

「次にこの舞台で歓声を上げるのは、どの馬なのか?」
夏の競馬は、そう問いかけながら続いていきます。

 

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